「霊界通信集」 B


 b-1(母との再会)


 母が亡くなってから一年ほどが過ぎたある日、私の元に一本の電話がありました。電話の主はEさん。六十代の女性で、何度かお目にかかったことがある方です。電話口でEさんは少し言いにくそうに話しました。
 「実はあなたのお母様が、あなたと話したいと私に訴えてこられるのです」
 聞けばEさんは昔から霊能力が高く、亡くなった人と交信ができるというのです。その力のことは隠されていますが、相手が知り合いの私ということで知らせてくれたのです。亡くなった人の魂が、生きている人の身体に移って話をする、いわゆる「交霊」という現象については私も文献などで読んだことはありますが、いざ自分の身内となると、やはり驚きが隠せませんでした。
 「母はなぜ私と話したがっているのでしょう」と聞くと、「あなたがお母様に、申し訳ないという思いを送っているからですよ」とEさんは答えます。しばらく私は言葉が出ませんでした。確かに私は毎晩、母に向かって手を合わせていました。「親孝行らしきことをしてあげられずにすみません」と心の中で呟きながら。そして数日後に、私はEさんの元を訪ねました。「交霊」が始まりました。Eさんの身体がいきなり前かがみになり、母の声が聞こえました。

 「直樹さん、心配させてごめんね」
 声はEさんの声でしたが、口調はまさに母のそれでした。
 「お母さん、私は元気ですよ。何も心配はいりませんよ」
 そうして亡き母との会話が始まり、私は聞きたかった質問を投げかけました。息子として、そして医師としての疑問を解決したかったからです。
 「お母さんは、どうして亡くなったの?」
 「心臓発作よ。お風呂に入っている時に、急に胸が締め付けられるようになったのよ」
 「それはいつのこと?」
 「あなたが来てくれた翌日の五月六日の夕方よ。薫さん(弟の名前)が電話をくれなかった時には、すでにこっちに来ていたわ」
 母が言う死因と死亡時刻は、検案の結果と一致していました。私は会話を続けました。
 「もっと強く同居をすすめておけばよかったね」
 「そんな必要はありませんよ」
 「そちらではお父さんには会ったの?」
 「お父さんにはまだ会ってないわ」
 「お祖父さんとお祖母さんには?」
 「会ったわよ」
 「どうして私がお母さんに申し訳がないと思っていることがわかったの?」
 「ずっとあなたを見ていたからよ」
 「私が毎晩お母さんに心で話しかけていたのも見ていたの?」
 「そうよ、いつも見ていたわ」
 会話をしている時のEさんの様子は、ちょっと視線を外すような仕草も、母そのものでした。さらに私は、母が今いる世界のことを聞きました。
 「そちらの居心地はいいの?」
 「とても素晴らしいところよ」
 「私はいつ頃に、そちらに行けるのかな」
 その質問に母は、困ったような表情で「そんなことは聞いてはいけません」と答えました。まだまだ聞きたいことはありましたが、なぜかこれ以上母を引きとめてはいけないような気がしたのです。そして最後の会話をしました。
 「お供え物などはしなくていいですか?」
 「もちろん。ときどき思い出してくれればそれでいいのよ」
 「じゃあ、後のことは心配しないでください。私は大丈夫ですから。もうお母さんはこちらには来ないのですね」
 「ええ、これでお別れよ。元気でね」

 これが亡き母との会話のすべてです。そして確かに、私自身が身をもって経験したことなのです。今も母は、どこかで私を見ていることでしょう。

   矢作直樹『死んだらどうなるのか?』PHP研究所、2013、pp.96-99




 
 b-2 (生前の約束を果した作家の霊)


 遠藤周作さんが亡くなったのは平成八年九月である。その年の一月、遠藤さんから電話でこう訊かれた。
 「佐藤くん、君、死後の世界はあると思うか?」
 「あると思う」
 とすぐ私は答えた。遠藤さんはなぜあると思うのかとは訊こうとせずにいった。
 「もしもやな、君が先に死んで、死後の世界があったら、『あった!』といいに幽霊になって出て来てくれよ。オレが先に死んだら、教えに出て来てやるから」
 「遠藤さんの幽霊なんか来ていらん!」
 と私はいい、話はそこまでで終った。その前にも一、二回、死後のあるなしについて遠藤さんが訊いたことがあったと思う。
 遠藤さんが亡くなった翌年の五月の中旬だった。私は夜遅く、江原啓之さんと電話の長話をしていた。心霊についての質問やら相談をする時は、いつも夜の十時頃である(それほど江原さんはスピリチュアリズム研究所の仕事が忙しく、日中は時間がとれなくなっていたのだ)。その時、話の途中で江原さんは突然、
 「あ、ちょっと・・・・・・待って下さい・・・・・・・」
 といって言葉を切ったかと思うと、
 「今、佐藤さんの部屋に遠藤先生が見えています」
 といった。
 「多分、遠藤先生だと思います。写真で拝見しているのでわかります。茶色の着物姿で、そこの部屋の壁に懸っている絵を眺めたり、今はデスクの上に書きかけの原稿がありますね、それを見て・・・・・・・人さし指で下の方のも持ち上げてニヤニヤしながら見ておられます・・・・・・・・」
 私は言葉が出ない。私は十畳の洋室を書斎兼寝室にしている。その時はベッドに腰をかけて受話器を耳に当てていた。勿論、私には何も見えず、何の気配も感じない。
 「遠藤先生がこういっておられます。死後の世界はあった、こっちの世界はだいたい、君がいった通りだ・・・・・・・」
 私の身体を戦慄が走った。驚きや怖ろしさではなくそれは間違いなく感動の戦慄だった。私は思い出したのだった。遠藤さんの生前の、あの会話を。
  ――もしオレが先に死んだら、教えに出て来てやるから・・・・・・・。
 遠藤さんはそういった。そしてその約束を守って出て来てくれたのだ・・・・・・・。
 呆然としている私の中に何ともいえない懐かしさと嬉しさがこみ上げてきた。わっと泣き出したいような熱いものがたちのぼってくる。
 「それから・・・・・・こういっておられます。作家というものはみな怠け者だから、こうして時々、見廻りしなければならないんだ・・・・・・・」
 それから江原さんはクスクス笑い出した。
 「この前も見てたら、佐藤くんは机に向ったままじーっと動かない。そんなに行き詰まっているのかと思ってそばへ寄ってよく見たら、居眠りしとった・・・・・・・」
 思わず私は、
 「遠藤さんはあの世へ行っても生前のキャラクターが消えないのね」
 と感心した。

    佐藤愛子『私の遺言』新潮社、2002年、pp.256-258





 b-3 (あの世の作家たちからの通信)


 広い畳の部屋があって、それは舞台のように空中に浮かんでいるらしい。中央に朱塗りの座卓、その上に徳利と湯呑茶碗がある。座敷の背後はどこまでもどこまでも奥へとつづいている。鏡を張りめぐらした部屋では際限なく部屋がつづいているように見えるが、そのような感じだという。座卓のまわりに座椅子が四つあって、その一つに遠藤さんが坐っている。遠藤さんの右横に「やや小太りの丸いような四角いような顔の男性」が坐っているが、どなたでしょうね、作家の方だと思うんですが、と江原さん。私はすぐにピンときて、多分開高健さんでしょう、といった。江原さんが「開高さんですか」と訊くと領いたという。もう一人、女性がいる。ワンピースを着た、ボーイッシュな感じの細身の女性で五十歳くらいに見える。
 誰かしら? と私は思案した。女流作家で亡くなった人といえば、芝木好子さんしか思い当らないが、芝木さんはボーイッシュじゃない。芝木さんですか、と江原さんが訊くと、「わたしのこと知らないなんて失礼しちゃうわね」といったという。その声は低めで、さばさばしたしゃべり方だそうだ。考えたがわからない。
 「知らない筈ないじやない。寂しいわ」
 といっているという。すると、遠藤さんが横合から、「たっちゃんだよ」といわれました、と江原さんはいった。
 「たっちゃん?」
 ますますわからない。すると今度は、「さっちゃんだよ」といったように聞えたという。「たっちゃん」か「さっちゃん」か? 多分、さっちゃんといったのをたっちゃんと聞き違えたのでしょうと江原さんはいう。それでもわからない。「ヤーだ」と「さっちゃん」はいい、遠藤さんの肩を叩いたりしている。
 「あたしは演劇の方面もやってたの」といわれました。
 と聞いて思い出した。「さっちゃん」だなんていうからわからないのだ。佐和子さんでしょう。有吉佐和子さん――私はいい、江原さんが確かめるとやっと有吉さんは領いた。
 江原さんは「もう一人、端っこに坐っている人がいます」という。この人も小太りでメガネをかけている。何もいわずに酒を湯呑についでは飲んでばかりいるらしい。全体の雰囲気では、どうやら「ついで」に呼ばれた人のような感じです、と江原さんはいうが、見当がつかない。
 遠藤、開高、有吉三人は楽しそうだ。遠藤さんが、
 「今、佐藤愛子がこっちを見てるぞ」
 というと開高、有吉がわーツと笑ったが、その笑い声にはどこか優位の感じがあるという。遠藤さんは、
 「飲むか?」
 とこちらに向けて湯呑をさし出したりしてからかい、後の二人がまた笑っているそうだ。
 聞いているうちに正直、羨ましくなってきた。この世では「死」は不吉、不幸、悲劇である。だが、あの世には不吉も不幸もないのだ。遠藤さんは、「すごくいい所へ来ている」といい、更に「ぼくの人格が高いからね」といい足した。「人の役にも立ってきた。沢山の寄附もしたしね」とどこまでも冗談めかしていうところが、生前の遠藤さんそのままだ。
 私が羨ましいと思ったその波長が届いたのか、遠藤さんは、
 「君はまだまだここへ来られないよ。資格がないからな」
 といい、開高、有吉両人も口々に、
 「ざまァみろ!」
 といっている。そう聞くとますます羨ましくなって早く死んで仲間入りをしたいと思ってしまう。だが下手をすると、仲間入りをするつもりで、いそいそと死んでも、資格が足らず幽界の下層でうろうろしていなければならないかもしれない。多分、仲間入りが出来る頃には遠藤さんたちはとっくに霊界に上っていることだろう。

   佐藤愛子『冥土のお客』光文社、2004年、pp.196-200





 b-4 (霊界で成仏していない父母の消息を知る)


 私が五十歳を過ぎた頃のことだ。その頃、優れた霊能力を発揮していた美輪明宏さんから、私は、
 「佐藤さん、お父さんが成仏していらっしゃらないわ」
 といわれてびっくりした。父が死んだ時、二十五歳だった私はもはや五十を過ぎている。二十五年間も父は霊界に入れずに苦しんでいたというのだ。
 「紅緑さんは一人の男性の身体に、まるで大木に蔦が巻きつくようにしがみついて、苦悶の表情を泛べているわ」
 美輪さんはいった。
 「そしてしがみつかれている男の人はね」
 といって美輪さんは傍のメモ用紙にボールペンを走らせた。
 「メガネをかけて面長で……着物を着てるんだけど、帯を下の方に巻きつけているものだから、胸からお腹のへんまで開いているの……その帯もよれよれの兵児帯……」
 そういって紙片をさし出した。
 「こんな人……」
 見るなり私は驚いた。
 「あっ、福士さん!」
 と叫んだ。美輪さんは絵の才能がある人だ。その素描はまさしく福士幸次郎だった。福士さんを知っている人なら、一目でわかるメガネと痩せた面長。くたびれた着物によれよれの、帯ともいえないような細くよじれた兵児帯は誰もが知っている、最も福士さんらしい姿だった。
 「しがみつかれた人は呆然として、空を見詰めてるわ」
 と美輪さんはいった。
 父より三年先に死んだ福士さんの魂は、その間どこでどうしていたのだろう。十五も年上の紅緑よりも先に死ぬとは思っていなかったのに突然命をなくし、老衰して敗戦後の窮乏の中で自分を頼りに生きている紅緑をこの世に遺して死んでしまったことのその心残り、心配が福士さんの魂をさまよわせていたのだろうか。
 あるいは生涯の大部分を紅緑に尽すことに費やしてしまった無念さを抱え、しかし漸く解放されてほっとしていたら、(なにごとにも福士さんという人は暢気でスローモーションの人だった)「福士、福士」と呼ぶ声が聞えて紅線がやって来た。つい惹き寄せられてふらふらと近づいて、つかまってしまったのだろうか。死んでも尚、父は情念に呪縛され、煩悩から解脱出来ず、生きていた時にしたようにどこまでも福士さんに頼っていたのだ。
 父が浄化されなければ福士さんも成仏出来ないだろう。父も可哀そうだが、福士さんはもつと可哀そうだ。父のため福士さんのため、私は成仏の手助けをしなければならないのだが、どうすればいいのか私にはわからない。その力もない。ただ驚き呆れるばかりだった。
 美輪さんによると、私の母もまた成仏出来ていないということだった。母は舞台女優になる夢を抱いて大阪から上京し、紅緑が主宰していた劇団に加入したのだが、紅緑の狂気のような愛欲の焔に焼かれ、無理無体に女優の夢を捨てさせられた。その痛恨を母は生涯を通して口にしていた。自分の人生の大半が不本意と諦めに埋もれて終ったことへの無念さは、死んでも母の魂を縛って離れなかったらしい。
 父は福士さんに取り鎚り、母もまた成仏していないとなると、不良の名をほしいままにした四人の兄(一人は心中、一人は戦死、一人は原爆死。長男だけがまともに心臓を病んで病院で死んだ)たちも、行くところへ行けていないような気がする。
 とすると、末っ子の生き残りであるこの私に、はらからすべてを成仏させる務めがあるのかもしれない。その一、二年前から急に私の身に起り始めた色々な霊現象の体験によって、私は四次元の仕組についていやでも関心を持たざるを得なくなっていたが、あれもこれも目に見えぬ存在からの「はからい」なのかもしれない、私はそう思った。

   佐藤愛子『冥土のお客』光文社、2004年、pp.234-238





  b-5  (肉体が本来の姿ではない ― 高位霊からのメッセージ


 肉体との別れ…大切な人が死んでしまったら悲しい気持ちになるのは、当然です。そのショックからなかなか立ち直れない人もいる。とくに親、子ども、そして兄弟など肉親、または妻や夫などの場合はその悲しみは大きい。
 死んだことが信じられない…認めたくない… そんな気持ちになったりもする。しかし、現実は、現実として受け入れ、あなた自身も次へと進まなくてはなりません。そうできるように、人間というものはつくられている。
 生きているあなたが、先立った人のことをなげき、悲しみ、暗い日々を送ることは、さらなる不幸を招きます。先立った人は、たとえどんなかたちの先立ち方をしたとしても、この三次元での修行を終了し、あなたより先に四次元に行き、修行をしています。修行の場が変わっただけで、なにも変わりません。肉体がない以外、すべてあなたと一緒です。意識もある。むしろ、人間の本来の姿へと戻ったんです。人間とは、いまのその肉体が本来の姿ではなく、肉体を脱いだ意識体が本来の姿なんです。
 でも、この物質の世界、三次元にいるときは、これがすべてだと思って、肉体を失うことに恐怖を感じる。肉体がすべてではない。肉体を脱いだあとに、なんともいえない開放感をみな感じるのです。

    大森和代『あなたこそ救世主』たま出版、2011、pp.128-130





  b-6 (亡くなった息子との会話)
       ―霊能者ジョージ・アンダーソンによるリーディングの実例―


 ジョージが日本に来るさいに通訳を務めていらっしゃる、糸川津氏の手によって報告された、日本人を対象者としたリーディングの実例から、その抜粋をご紹介しましょう。通訳者で報告者の糸川氏は、きわめて冷静かつ客観的な第三者として報告をされており、意図的にジョージのリーディングを正当化したり、読み手に信じこませようとする姿勢は、まったく見られないことを保証します。
 まず、四十代の男性を対象者としたリーディングの一部です。

 「息子さんを亡くしましたね。小さい子ですね」
 「はい」
 「十歳より下ですか」
 「はい」
 「七歳より下ですか」
 「はい」

 その男の子は、小学校就学を目前にして亡くなっていました。

 「陽気な子供ですか」
 「はい、とっても陽気でした」
 「今もとても陽気です。『陽気でした』はやめてよ、『陽気です』でしょ、と言っています。いやあ、元気なお子さんだ。ぴょんぴょん跳ねていましてね」
 「ああ・・・・・・・息子に間違いない・・・・・・」

 それから男性は、通訳者の糸川氏に向かって、日本語で説明したそうです。

 「息子は何かうれしいことがあると、きまってぴょんぴょん飛び跳ねるくせがあったんですよ」

 しばらく黙ったあと、ジョージが語り出しました。

 「息子さんの夢を見ましたか」
 「ええ!」
 「息子さんは、あの世からあなたが悲しんでいる様子を見て知っているんです。今は肉体をまとっていないけれど、いつもあなたのそばにいるということを知らせたくて、あなたの夢の中にあらわれたんだと言っています」
 「やはりそうだったんですか!」
 「悲劇的な死でしたか」
 「はい」
 「事故?」
 「はい」
 「どこか高いところから落ちたんですか」
 「いいえ」
 「へんだなあ・・・・・・待ってくださいよ・・・・・・胸が苦しくなりましたか。肺の空気がなくなりましたか」
 「ええ、ええ」
 「ゆっくり落ちていって、肺の空気がなくなって・・・・・・水の中・・・・・・もしかして、おぼれたんですか」
 「はい、そうです!」
 「おぼれたのは、海とか川じゃないと言っています。・・・・・・まわりを仕切られた、人工的な水たまりだと言っています」
 「はい」
 「プールでおぼれたんですか」
 「いいえ・・・・・・風呂で溺死したんです!」
 「風呂でおぼれたんですか、なるほど、確かに人工の水たまりですね」
 「はい」
 「事故の状況から想像すると苦しんだように思うかもしれませんが、彼は苦しまなかったと言っています」
 「私から、息子によろしく伝えてくださいますか」
 「いや、それはもう息子さんのほうでよくわかっていますから、いまさら、言う必要はありませんよ」
 「・・・・・・・」
 「事故にあったとき、あなたの奥さんが家にいましたか」
 「はい」
 「というのは、息子さんが、『お母さんに、自分を責めないように言ってください』と言っているんです。注意がたりなかったとか、風呂場を見ればよかったとか、自分の死に責任を感じないでほしい、と言い続けています」
 「・・・・・・」
 「だれも責めてはいけない、と息子さんが言っています。あれは、自分でも知らないうちに、あっという間に起きたできごとで、だれがその場にいても救うことはできなかった、悲しいことだけど、行くべき時期だったんだ、と言っています」
 「・・・・・・でも、そうは思えませんね。完全に人為的な過失ですよ」
 「息子さんが、『お母さんを責めないで』と言っていますが、もしかしてあなたは、奥さんを責めていませんか」
 「もちろんです。女房はそのとき家にいたし、息子が風呂に入ったのも知っていたんだから。当然、出てくるのが遅いと気づくべきなんだ」
 「ああ、息子さんが言っているのはそのことですね。息子さんは、『お母さんを責めちゃだめ。お母さんには、まるで責任はないよ』と言っていますよ」
 「でも・・・・・・私には、そうは思えませんね」
 「息子さんは、『なんでお母さんを責めるの? お母さんだって僕が死んだことがつらいのに、お父さんが責めたら、もっとつらいじゃないか。責めるのはやめてよ。その怒りはもう捨てなきゃ』と言っています」
 「・・・・・・」
 「『やみ』とか『もみ』とか聞こえますが、だれかの名前ですか」
 「娘の名前です」
 「『ともみ』という名前ですか」
 「はい! そのとおりです!」
 「息子さんは、その娘さんのことを、『もみ』と呼んでいたんですか」
 「ええ! そのとおりです! 息子が本当にそう言っているんですか?」
 「はい、息子さんが、もみ、と呼びかけています。ともみに、もっと優しくしてやって、と言っています」
 「でも、娘に息子の代わりはできませんからね・・・・・・」
 「息子さんは、『お父さん、何言ってるんだ、ともみになんの責任があるんだ? ともみが僕じゃないのは、ともみのせいじゃない。僕が死んだせいで、ともみをないがしろにするのは、絶対におかしいよ!』と言っています」
 「・・・・・・」
 「まあ、息子さんもあなたに負けず劣らず頑固みたいだから、主張は絶対にゆずらないようですよ」
 「・・・・・・」
 「『約束して、約束して、お母さんと、妹と仲直りすることを、約束してよ』、と言っていますよ。さあ、返事をしてあげてください」

 長い沈黙のあと、男性は、「はい、努力してみます」と、絞り出すような声で言いました。

 「『なおき』というのは誰ですか」
 「ああ、息子のライバルだ!」
 「友達ですか。呼びかけています」
 「はい」
 「あなたは、睡眠不足じゃありませんか」
 「そうです」
 「もっと、ちゃんと休養をとったほうがいいと言っています」
 「はい」
 「いつか、お父さんもこちらに来れば、僕に会えるんだから、安心して』と言っています」

 そのとたん、急に、男性は大声をあげました。

 「いつなんだ? いつ、そっちへ行けるんだ? すぐにでも行きたいよ! いつ会えるんだ! いつ・・・・・・」
 「だめ、だめ、だめ。息子さんは、『そういう考え方は絶対にだめ』と言っています。あなたには、この世で果たすべき使命があるんです。それを果たすまでは、前向きに生きなければなません。もしかして、生きる気力をなくしていませんか」
 「はい・・・・・・仕事をしていても、生きていても、意味がないような気がするんです・・・・・」
 「息子さんは、『お父さんは、僕のためだったら、何でもしてくれるよね』と言っています」
 「ええ、そりゃ、もちろん」
 「『だったら、お父さんにしてもらいたいことがある。ひとつは、お母さんを許すこと。何度もいうけど、絶対にお母さんのせいじゃないからね。それから、ともみに優しくしてあげること。そして、強く生きていくこと。いずれは、僕に会えることがわかったんだから、安心して、自分のつとめを果たして。お父さんには、お父さんなりの修行があるし、人生の目的があるんだ。いい? 約束して』と言っています」
 「女房を許さなければならないんでしょうか」
 「そうです。非常に難しいことですが、そうすれば、とても心が安らかになるんですよ。悪い感情を捨ててしまわないと、いつまでも同じ状態にとどまって、ぬけ出すことができなくなるよ、と言っています」
 「・・・・・・わかりました。努力します」
 「・・・・・・息子さんが、あなたを愛で抱きしめています。それから、さっき言ったことを、真剣に考えてくれと言っています。頑固さと怒りを捨てて、奥さんを許すこと、お嬢さんにうんと優しくすること。『お父さんは、百回言わなきゃわからないんだから。でも、お父さんが好きだよ』と言っています。また会う日まで、さようなら・・・・・・」

   飯田史彦『生きがいの創造』PHP研究所、1996、pp.200-208






   b-7 (夫と息子を飛行機事故で亡くした女性へ)


  ここでは、この本の著者で世界有数の霊能力者といわれるジェームズ・バン・プラグが、夫と息子を飛行機事故で亡くしたマリリンという女性にあの世からのメッセージを伝えている場面をつぎのように述べています。

  ・・・わたしは彼女を交霊室に案内し、できるだけくつろげるようにしました。そして、これからどういうことが起きるのか、手短に説明しました。それが終わるか終わらないうちに、わたしはマリリンの左隣に男性の存在を感じました。
 「ロジャーという名前に心当たりはありますか?」とわたしは尋ねました。
  ロジャーは夫の名前だと彼女は答えました。
  「赤みがかったブロンドの髪の男性が見えます。彼はしきりに髪を櫛でといていますね」
  私がその動作を真似してみせると、マリリンの目がみるみる赤くなりました。
 「まあ、そうです。あの人はいつも髪を気にしていました」
 「彼が飛行機のコックピットを見せてくれています。コントロールパネルに並んだ文字盤や針がすでに作動しなくなっていますね。煙や火が見えます。そして、真っ暗になった。これで何か思い当たることがありますか?」
  マリリンは震えはじめ、ティッシュを出して目頭を押さえました。
 「ロジャーは一年前に飛行機事故で亡くなったんです。夜、飛行機が墜落して。そう、私はあの人とコンタクトを取りたいと思っていたんです」
 「あなたを心から愛している、あなたと話す機会を自分もずっと待っていた、と彼が言っていますよ。彼はとっても興奮していますね。結婚記念日おめでとう、とあなたに言いたいそうです」
 マリリンはひどく驚きました。「今週が結婚記念日だったんですよ。まあ、なんてことでしょう!」
 「あなたの知っている人が彼の隣に立っています・・・小さな少年だ。名前はトミー。ご存じですか?」
 マリリンはすっかり興奮して文字通りさけびました。
 「ええ、もちろん、知っていますとも!トミーは私の息子です。ロジャーと一緒に飛行機に乗っていました。それがそもそもの発端だった。トミーが飛行機に乗せてほしいって、パパに頼んだんです」
 「彼はこう言ってますよ、『ママ、そんなにびっくりしないで。ぼくはここでパパと一緒なんだから!』と。彼の部屋に行って『スターウォーズ』のポスターを壁からはずしてほしいそうです。もう必要ないそうだ」
 マリリンは信じられないといった表情で首を振りました。「そのポスターはあの子のベッドの上にかけてあるんです」
 「彼はボビーという名前を口にしてますね。ボビーに言いたいことがあるそうです」
 「ボビーはもうひとりの息子です」とマリリンが説明しました。
 「ボビーが二番目の引き出しからぼくの赤いシャツを出して着ているけど、ぼくはべつに怒っていないよ、とトミーが言っています」
 依頼人の口からあえぎ声が洩れました。マリリンはまたもや言葉を失っていたのです。この意味がわかりますか、とわたしは尋ねてみました。
 「今日、ボビーは赤いシャツを着ているんです。わたしが家を出る直前にあの子がそれを着たんですわ」
 夫と息子に交信していることをマリリンは確信しました・・・・・・

 ここでは、霊能者のジェームズが、マリリンに対して、飛行機事故で亡くなった夫のロジャーと息子のトミーからのことばを仲介しています。霊能者はただ単に、聞いたことを先入観なしに伝えるだけですから、霊界からの「ロジャー」とか「トミー」という名前を聞いても、彼らが夫であり息子であることは、時には、説明を受けなければわかりません。これは、この世での対話の場合と状況は同じです。「スターウォーズ」のポスターや、二番目の引き出しから出した赤いシャツも同じで、霊能者のジェームズがマリリンに聞いて、ことばの意味を納得しています。時には、霊能者がことばを仲介しても、しばらくはその意味がわからないこともあるようです。

                  (出典:記載ミスにより消去、調査中)






   b-8 (未来の出来事が見えるという霊の姿)


 次にご紹介するリーディングでは、たとえ現世で気づかなかったことでも今は未来の出来事ががはっきり見えるという霊のすばらしい姿が明らかになります。この一例がすべてにあてはまるわけでは決してありませんが、実際に起こればこんな感激はないでしょう。このセッションはグループ交霊会での出来事でした。わたしは部屋にいたひとりの女性に近づき、彼女の祖母の霊に同調しました。すぐ隣りに立っていたのです。そのお祖母さんは証拠となる確かな情報をいくつか披露しました。自分が死んだ経緯を物語り、彼女のソファに置かれた新しいクッションについて感想を述べたのです。これでリーディングも完了かと思ったやさき、実に奇妙なことが起きました。

 「カーラ、存命中の人でジョアンヌという名前に心当たりはありませんか?」
 カーラは考えていましたが、それらしい人物は思い当たらないようでした。そこでわたしは先を続けました。
 「実は、わたしの横に男の人が立っていて、あなたにぜひ思いだしてほしいと言ってるんですがね」
 それでもカーラにはまだ思いだせません。
 「彼はバイク事故の話をしています。バイクの衝突で亡くなったそうです。仕事から帰る途中だったらしい」
 カーラはしきりに首をひねっていましたが、不意に顔が真っ青になりました。そして、叫んだのです。
 「そうよ、そうだわ」
 「彼はキャシーという名前を口にしていますが?」
 「ええ。わたしの親友の名前がキャシーです。ポールは彼女のご主人です。バイクの事故で亡くなったんですよ」
 カーラはひどく興奮してきました。彼女が落ちつくまでわたしたちはしばらく中断しなければなりませんでした。それからふたたびわたしは口を開きました。
 「ポールが制服を見せています。警官の制服だ。警察車両のパレードのようなものも見せていますね・・・・・どうやら、何かの行進らしい」
 「ええ、彼の葬儀のとき、警察がパレードしました」
 「何人かの警察官が彼の棺をかついでいます。彼の墓は何か壁のようなもののそばにあるんでしょうか?」
 「さあ、覚えてないけど・・・・・・いいえ、わたしにはわかりません。あとでキャシーに訊いてみます」
 「キャシーはポールの警察バッジを額装して、写真と一緒に壁に掛けてはいませんか?」
 「さあ」
 「あとで訊いておいてください。彼女がその額の前に立って夫に話しかけている姿を、ポールは見ていたそうですよ」
 「わかりました、訊いてみます」
 そのときでした。ポールは実に思いがけない話を伝えはじめたのです。わたしは受け取った情報をどう解釈すべきか、いつもわかるわけではありませんが、このときばかりはまったく理解できませんでした。
 「赤ちゃんを見た、とボールが言ってます。赤ん坊のことはちゃんと知ってる。女の子で、生まれたときにその場にいたんだそうです。この意味がおわかりですか?」
 カーラはぽかんとした顔つきでした。ところが、不意に泣きだし、口を手でおおいました。そして、途切れ途切れに話してくれたのです。
 「ええ、はい……やっとわかりました。ポールが事故死したとき、キャシーは妊娠二カ月だったんです。でも、彼はそれを知らなかった。キャシーは五カ月前に出産しました。女の子で、名前がジョアンヌです」
 わたしも含めて会席者全員がいっせいに息を呑みました。
 これはあとになってわかったことですが、やはりボールは壁の近くに埋葬されていまし   た― 霊廟の横です。キャシーはポールの警察バッジを額に入れて写真と一緒に居間の壁に飾っていました。夫の写真の前に立って、ポールに今も元気でいる証を示してほしいと話しかけていたそうです。彼女はリーディングの結果を聞かされてとても喜んでいました。
 愛する夫が向こう側の世界で生きているばかりか、天国から幼い娘を見守っていると知って、キャシーは現在も大きな安らぎに包まれています。

   ジェームズ・プラグ『もういちど会えたら』(中井京子訳)光文社、1998、pp.116-119






  b-9 (自転車で水に落ちて溺死した人からの通信)


 マークは数年前に亡くなった父親とすばらしい会話を終えたところでした。よくあるタイプのセッションで、マークがいろいろ質問してその答えを受け取っていたのです。これでそろそろ終わりかと思われたとき、別の霊の存在を感じました。わたしはダグという人物を知っているかとマークに尋ねました。
 とたんにマークの顔が青ざめ、首を上下に動かして勢いよくうなずきました。「ええ……確かに。彼はなんて言ってます?」
 「もう二度と雨の日にはでかけないとあなたに伝えてくれと言っています。自分が無事でいることを両親に伝えてほしいそうですよ。どういうことだかわかりますか?」
 マークは口ごもりながら答えた。「ええ、それから?」
 「なんでも洪水のようなものに遭遇したそうで、その危険性に気づいていなかったことが残念でならないと言ってます。これはどうも妙だな。新しい自転車を買ったという話もしてますね」
 「なるほど、よくわかります」
 「この人は溺死したんですか? 滴巻く水のなかでもがく感じが伝わってきますね。浮かんだり沈んだりするありさまを見せている。そして、肺が水でいっぱいになった」
 わたしの全身がダグに感応し、胸のあたりに圧迫感を感じました。
 「めまいがします。彼の意識がだんだんぼやけてきて、やがて、闇に包まれる」
 「すごい!」とマークが叫びました。
 「彼のまわりに消防隊、あるいは、レスキュー隊がいませんでしたか? そういう隊員たちが土手に立っているところを彼がわたしに見せているんですけど」
 「ええ、大勢のレスキュー隊員が出動して、川沿いの数カ所から懸命の救出活動を行なったんです」
 「彼は必死にローブをつかもうとしたけれど、どうしても届かなかったそうですよ」
 マークは暗澹とした表情を浮かべました。「ほかには何か?」
 「マックスによろしくと言ってます。心当たりはありますか?」
 「ああ、なんてことだ。マックスはわたしの大切な息子で、いつもダグがベビーシッターをやってくれてたんです。ふたりはすっかり仲良しになってしまって。まったく、ただ驚くばかりだ!」
 「彼はフロリダの話をしてますよ。野球帽を見せてるんだが……これはどうもわからないな。ちょっと待ってください。マーラかマーリンといったような言葉を伝えてきてますね」
 「フロリダ・マーリンズだ!」とマークが叫びました。「ダグの持っていたフロリダ・マーリンズの野球帽をマックスにやったんですよ。ダグの思い出になるといって息子はとても気に入ってるんです」
 「帽子を大事にしてくれって、彼が言ってますよ。それに、マックスのロから近所の子供たちみんなによろしく伝えてほしいそうです」
 ダグは子供たちの人気者だったのだとマークが説明してくれました。大のスポーツ狂で、近隣の子供たち全員から慕われていたそうです。
 「ダグがまた新しい自転車の話をしていますね。新しい自転車がとても気に入っていたらしい。どうしてこんな話をいつまでも繰り返しているのかな」思わずわたしはつぶやきました。
 マークは魅せられたように呆然としていました。
 「とても信じられない」ようやく彼が口を開きました。「すべてはあの自転車から始まったと言ってもいいんです。彼は嵐の二目前に新しい自転車を手に入れたもんで、荒れ狂う川の様子を見るためにそれに乗って土手まででかけたんですよ。増水した川に自転車が呑み込まれたんでしょうね。ダグは自転車を追いかけて自分も落ちてしまった。水の流れはあまりに激しくて、彼は脱出できなかったんです」
 「リンダによろしく伝えてほしいそうですよ」
 「リンダはわたしの家内です。ちゃんと忘れずに伝えますとも」
 「あなたがここにいらして彼はとっても喜んでいます。自分が元気にやっていることをみんなに知らせてほしいそうです」
 「わかったよ、ダグ」マークはにっこりと笑い、首を後ろに傾けて視線を上に投げました。
 数日してダグの家族から電話がありました。テレビ局すら知らない細かい情報をマークが受け取ったことに驚愕していたのです。彼らはわたしと面会の約束をしました。そして、数週間後、息子と対話し、息子の死後の生活を知って安堵したのです。ダグが両親に説明したとおり、彼の人生は氾濫した川のなかで終わったわけではありませんでした。彼は学業を最後まで続けるつもりで、いずれはガールフレンドができるといいなと両親に語ったのです。ダグの人生が今も続いていると知って彼らはとても喜んでいました。

   ジェームズ・プラグ『もういちど会えたら』(中井京子訳)光文社、1998、pp.80-83






  b-10 (自殺したのではなかった息子からの証言)

 アランとサンドラは友人に勧められてわたしのところへ釆ました。ふたりとも懐疑的で、心霊主義のような奇妙なものに関わっていいのかどうか、確信が持てなかったようです。わたしは例によって簡単な紹介をし、どのように情報を受け取るか、何が期待できて何が期待できないのかを説明しました。夫妻はじっと聞き入り、それなりの心構えができたように見えました。
 最初に部屋を訪れたのはサンドラの母親でした。わたしは口を開きました。「サンドラ、あなたのお母さんがここにみえてますよ。あなたのすぐそばにいる。包丁には気をつけなさいと言ってます」
 「あら、まあ」とサンドラが驚きの声をあげました。「今日、包丁を研いでいて、あやうく指を切りそうになったんです。母はわたしを見ていたのかしら?」
 「わたしがお宅のキッチンにいたわけではないですから、きっとあなたのお母さんでしょうね」
 サンドラは微笑を浮かべました。母親はさらに思いを伝えてきました。
 「お母さんは新しいパティオの家具が気に入ったそうですよ」
 「まあ、そのとおりです。このあいだシアーズで買ったばかりですわ。母が同居していたころはよく外のポーチにすわってましたっけ」
 「彼女はものすごいユーモア感覚の持ち主だな。パティオにすわって死ぬのを待ってたって、おっしゃってますよ」
 そのとき、別の霊がどうしても聞いてほしいとばかりに想念を伝えてきました。
 「ええ、聞こえてますよ」わたしはその霊に答えました。「サンドラ、あなたのお母さんのそばにもうひとり来ています。急に亡くなった若い青年ですね。あなたがずっと彼に会いたがっていたのだとお母さんが言ってます」
 夫婦の目に涙があふれてきましたが、わたしはそのまま先を続けました。
 「スティーヴンという名前がわかりますか?」
 ふたりは青ざめ、泣きだしました。スティーヴンは息子で、彼に会いたいばかりにわたしを訪ねてきたのだというのです。
 「スティーヴンはとても動揺していますね。気持ちが落ちつかないらしい。あなたがたになんとかそれを伝えようとしてきたそうです。息子さんは向こうへいらして約二年ぐらいですか?」
 「いえ、まだ十カ月ほどです。もうすぐ一年になります」
 「なるほど。自分が死んだことであなたがたにとてもつらい思いをさせてしまった、と彼は言っています。ひどく後悔しているようですね。彼は過ちを正そうとしてきた。これはなんの話なのかな。どういう意味かおわかりですか?」
 アランが口を開いた。「ええ、たぶん。ほかに何か言ってますか?」
 「驚いたな、彼は焼けつくような感覚を伝えてきてます。わたしの頭が粉々に吹き飛んだような感じだ。失礼。でも、彼がこれを伝えてきてるんです。息子さんは銃で撃たれたんですか?」
 「はい」
 「寝室であなたに発見してもらったと彼は言ってます」
 「そのとおりです」ふたりは涙を拭いた。
 「これはわたしとしても申しあげにくいんですが、息子さんは麻薬をやっていたか、少なくとも、試してみたようですね」
 「ええ、そうなんです」とサンドラが答えました。
 「息子さんはとても力強い。叫んでいますよ―『ロニーだ!』って。ロニーとは誰のことですか?」
 「ロニーは彼の友人です」
 そして、わたしは室内の雰囲気を一変させるような情報を伝えることになったのです。依頼人の夫婦ばかりか、わたし自身、驚愕しました。
 「彼の腕時計。息子さんは金時計の話をしています」
 アランが答えました。「息子が死んだあと、あの時計が見つからなかったんですよ。そこらじゅうを捜したのに」
 「息子さんが代金の代わりとしてロニーに渡したそうです。ロニーは怒った。息子さんが亡くなる前に何か喧嘩のような事態になったんでしょうか?」
 「さあ」
 「スティーヴンがわたしに叫んでいます。ぼくは自殺したんじゃない。ロニーだ。ロニーがやった。ぼくは自殺なんかしてない!」
 一瞬、沈黙が室内にみなぎりました。わたしたち三人は一様に耳を疑ったのです。霊が自分の殺害者の名前を名指しするなんてめったにないことです。この場合、スティーヴンは正義を求めていたのでした。わたしはゆったりとすわりなおし、落ちつきを取り戻してから先を続けました。
 「スティーヴンが何か自殺について話しています。彼は自殺したのだとあなたがたは思っていたんですか?」
 ふたりはそのとおりだと認めました。
 「あれは自殺ではないと息子さんはご両親にわかってもらいたいそうですよ。ぼくは絶対に自殺なんかしない、と。警察は息子さんの死に疑問は持たなかったんでしょうか」
 「ええ、スティーヴンは麻薬中毒だったので、それで自殺したんだろうとみんな思いましたから。体内から麻薬が検出されましたしね」とサンドラが答えました。
 「息子さんとそのロニーという人物が争ったのは間違いないようですね。ロニーはお金と麻薬を求めていた。アラン、あなた、銃を持っていませんか?小型拳銃を?」
 「ええ、息子はそれを使ったんです」
 「化粧だんすのいちばん下の引き出しから取ったと言ってますね。そうなんですか?」
 「信じられない、どうしてそんなことまでわかるんですか?まったく、そのとおりですよ」
 「そのロニーに前科はあったんでしょうか?」
 「いいえ、ないと思いますけど」とサンドラ。
 「さっきから息子さんはお金がらみの争いを示しているんです。スティーヴンはロニーに金銭的な借りがあった。当時、この男はひどく混乱していた。何かでハイになっていたんだな。これはロニーのことですよ。ああ、息子さんはずっとわたしにガレージを見せています。煉瓦造りのガレージで、白いドアが付いている。小さな窓が三つ。彼はそのひとつの窓を開けて、左側の壁ぎわに寄っていきます」
 「うちにはガレージはありません。どういう意味なんでしょう?」
 「さあ、わかりませんが、でも、覚えていてください。あとで意味が通じるかもしれませんからね。この話ができて息子さんはとっても喜んでいますよ。いつかわかってもらえる日が来ると言ってます。ロニーを捕まえろ、と。あ、また誰かの名前を口にしてます・・・・ シャロン、いや、シェリーかな」
 アランが大きな声をあげました。「それはスティーヴンの妹です」
 「お子さんができたばかりですか?」
 「いいえ」
 「そうですか。どういう意味なのかわたしにもわかりませんが、いずれわかるかもしれないので、心に留めておいてください。おや、ここでまたあなたのお母さんが割り込んできて、おふたりのおかげでスティーヴンが立ちなおったと言ってますよ。彼はもうだいじょうぶだそうです」
 「それはどうも」
 「お母さんはじゃがいもの皮むきがどうのこうのと言ってますね」
 サンドラが答えました。「昨日、ポテトスープをこしらえたんです― 母のレシピを使って。あのとき、母のことを思いだしました」
 「スープのお味は上出来だったわね、と彼女が言ってますよ」
 これを聞いてふたりは笑顔を見せました。セッションがまだしばらく続きました。スティーヴンが自分の葬儀について話しました。母親が墓石についてあんなに悩むことはないのにと思ったそうです。やがて交霊会は終わり、わたしたちは別れを告げました。この夫婦は息子と交信したのだと確信しました。ふたりは録音したテープをもう一度聞いて、驚くべき情報について考えてみると言いました。
 それから数カ月後、サンドラから電話をもらいました。家族そろって感謝していることをわたしに伝えたかったそうです。そして、これまでに起こった出来事を報告してくれました。ふたりは警察に連絡して、息子の変死を担当した刑事に相談しました。その刑事はロニーについて追跡調査をしました。ロニーの家を訪ねてみると、窓が三つある煉瓦造りのガレージがあったそうです。その左側の壁の内部にヘロイン1キロと雑多な麻薬類、それに、スティーヴンの金時計が隠してありました。
 ロニーは逮捕されました。警察の尋問でロニーはついに自白し、スティーヴンの麻薬代金が未払いだったことを認めたのです。スティーヴンは代わりに金時計を渡し、ロニーはそれを受け取ったものの、なおかつ現金を要求しました。ロニーが集金に来た日、スティーヴンは護身用に引き出しから父親の銃を取っていたのです。残金の用意がないとスティーヴンが言うと、ロニーはその銃を奪ってスティーヴンの頭を撃ちました。ロニーはそのとき薬でラリっていたそうです。ロニーは起訴され、現在、終身刑で州刑務所に服役しています。

  ジェームズ・プラグ『もういちど会えたら』(中井京子訳)光文社、1998、pp.84-91






 b-11 (ヴェトナム戦争で亡くなった兄からの通信) 

 若い青年が友人の勧めでわたしのオフィスを訪れました。わたしはこの青年について何も知らなかったので、すぐにあちら側から切迫した衝動が伝わってきてもよく理解できませんでした。誰かがしきりに話したがっていたのです。そこでわたしは口を開きました。
 「あなたは家族とずいぶん別離があったようですね。ご家族とは離れているんですか? つまり、別の州にお住まいですか?」
 「はい」という返事が返ってきました。
 「ローラという名前に心当たりは?」
 「はい、ぼくの姉です。アリゾナに住んでます」
 「理由はよくわかりませんが、家族の波動が強いですね。お宅ではお子さんが三人、男ふたりに女ひとりですか?」
 「ええ……まあ、そうでした」
 「なるほど。つまり、若い男性の存在が強く感じられるんですよ。あなたのお兄さんではないかな。違いますか?」
 「確かに、ぼくが会いたいと思ってたのは兄です」
 「マイクという名前を伝えてきました。どうです、わかりますか?」
 青年は興奮してきました。「ええ、そうです、それは兄だ。兄の名前です」
 「自分は元気だと彼は言ってますよ。今日、あなたがここに来てくれてとってもうれしい、と。元気でやっていることを親父とおふくろに伝えてくれ、とそう言ってます。テキサスの話をしてますね」
 「テキサスに両親が住んでるんです。ぼくらはそこで育ちました。兄はだいじょうぶなんですね?」
 「もちろん。彼の話がわたしに聞こえているので、それが不思議でならないそうですよ。長いあいだ、こういう機会を待っていたそうです。彼は霊界で友人たちと会ってます。軍隊の仲間。戦友ですね。どういうことかわかりますか?」
 「はい、確かに。どうぞ続けてください」
 「彼はヴェトナムにいたんですか? ものすごい早口で戦争の話をしてますね。ヴェトナム戦争だ。ヴェトナムに駐屯した部隊の仲間たちと再会したと言ってます。彼はヴェトナムに行きたくはなかった」
 「そうなんです! あの当時、ぼくはまだ小さかったけど、マイクがヴェトナム従軍をひどくいやがっていたと母から聞かされました」
 「どうも急死なさったようですね」
 いつしかわたしは深いトランス状態に落ちていきました。戦火と苦痛の世界に放り込まれていたのです。ヴェトナムのまっただなかにいました。世界が狂ってしまったような感じです。明るく燃えるような黄色とオレンジの色彩がわたしを取り巻いています。わたしのすぐ前で大きな「パン」という音が響きました。わたしは依頼人を見つめ、しばらく中断しなければならないと説明しました。そして、わたしのガイドたちにこの死の記憶を取り払ってほしいと頼んだのです。わたしの生身の肉体に耐えがたい影響を残していたからです。ガイドたちはすみやかに取り除いてくれました。ふたたび戦場が現われてきましたが、今度はわたしも観察者でいられました。
 「やぶのなかに男の人が見えます。あたりはとても暗い。この男性がお兄さんだと思いますが、彼はひどく不安そうな顔をしています。ほかの隊員と一緒に歩いているところです。彼は上着を脱ごうとしたが、上着の裾がベルトのどこかにひっかかったようだ」
 依頼人の青年は涙を抑えきれない様子でした。わたしがお兄さんの死の場面を再現しているとわかったのです。手榴弾のピンが上着のジッパーにひっかかってはずれる光景がわたしの目に浮かびました。すさまじい爆風が兵士の体を引き裂き、首を吹き飛ばしました。そして、一面の闇。
 わたしは依頼人の顔をじっと見つめました。
 「お兄さんは、手榴弾が服にひっかかったせいで爆死なさったんですか?」
 青年は力なく椅子に寄り掛かりました。ゆっくりと口を動かして精いっぱい言葉を選んでいきます。
 「はい。政府から送られた書類にはそう書いてありました」
 わたしにとっても信じられない体験でした。これほどなまなましく現われた霊は初めてだったのです。わたしは苦労して興奮を抑えながら先を続けました。
 「これはすごいな! あなたのお兄さんはすばらしい交信者だ。待ってください。まだ言いたいことがあるようだ。目が覚めたときの感じを話しています。ほんの数秒ほどたったかと思ったとき、意識が戻ったそうです。周囲を見まわすうちに、気分がすっかり変わっていることに気づいた。先ほどまでの疲労もまったく感じられない。よく見ると仲間たちが輪になって叫んでいたが、そばに近づくまで彼らの言葉は聞き取れなかった。でも、仲間たちが大声で叫んでいたのは彼の名前だったのです。マイク!マイク!彼は返事をしたが、仲間の耳には聞えない。人垣に近寄ってみると、彼らはばらばらになった人間の死骸を見おろしていた。そのとき、突然、彼は全身になんともいえない奇妙な戦慄を感じたそうです。そして、戦友の死骸が身につけている認識票に目をやった。なんと、その認識票には彼自身の名前が刻まれていたのです」
 青年はすっかり魅了されていました。「まったく信じられない。兄にはそのときのことがわかってたんですね」
 「少しまごついたけど、でも、自分は死んだんだと気づいたそうです。平安と静寂がどんなものか、お兄さんが説明していますよ。ちょっと待って……アリスに出迎えてもらったと言ってます。アリスという女性をご存じですか?」
 「アリスは祖母です」
 「なるほど、アリスが手助けに来てくれたんですね。彼はショックで呆然となったが、同時に、幸福な安堵感も感じた。アリスがすぐそばに立っていたのだそうです。パピーにも会ったと言ってますよ。それから、ジョジョも一緒だそうだ」
 「パピーは祖父のことで、ジョジョは兄が飼っていたジャーマン・シェパードです。なんか、すごい話だな。じゃあ、動物もあの世で生きてるわけですか?」
 「あらゆる生物が生きつづけますよ。お兄さんは、いろいろと心配や苦労をかけて本当に申しわけないと言っています。今も元気で充実した生活を送っているから、どうかわかってほしい、と」
 「兄貴がそんな心配をする必要はないんだ。みんなが兄さんを愛してると伝えてください。彼がそばにいるんだとわかってとてもうれしい。いずれまた会える日を楽しみにしてるからね」
 「お兄さんがこう言ってますよ、こちらもみんなで……あ、彼は笑ってるな……ジョジョも一緒にその日を待ってるそうだ」
 このケースのように、リーディングのさいちゆうに動物が現われると、依頼人は当惑顔をわたしに向けるものです。かわいいフラツフィやローバーが死後も生存しているとはなかなか考えられないのです。でも、動物が生きていたっておかしくはないでしょう? 動物も人間と同じように、やはり神から与えられた生命なのです。動物が現われてもそのバイブレーションは人間の場合とだいたい同じです。動物の個性(動物にもちゃんと個性があるんですよ)がはっきりとわたしに伝わってきます。どの食べ物が大好きだとか、どこの椅子にすわっているのが好きだ、といったことをよく表現します。これも人間と似ているのですが、どのように死んだか、そのありさまを詳しく描写する場合があります。病気になって餌がなかなか飲み込めなかったとか、最後は満足に歩けもしなかったと訴えるのです。

   ジェームズ・プラグ『もういちど会えたら』(中井京子訳)光文社、1998、pp.94-99






  b-12 (バイクで転倒して事故死した青年の願い)

 このリーディングはある会席者の自宅で行なわれました。八人のグループでした。わたしにとっては初めて会う人ばかりでしたし、彼らが交信を求めている相手についてもまったく知りませんでした。
 三人のリーディングが終わったところで、不意にわたしは部屋の左側を振り向き、ソファにすわっているひとりの女性に目を留めました。その女性は泣いていました。
 「ちょっとよろしいですか?」とわたしは声をかけました。
 女性はこちらに顔を向けて遠慮がちに答えました。「はい、お願いします」
 「若い金髪の青年が、ひと晩じゅうあなたと一緒にそのソファに腰掛けていましたね。誰だか心当たりがありますか?」
 「はい、確かに」
 「彼はスティーヴンという名前だそうです。ご存じですか?」
 女性はわっと泣きくずれ、悲鳴のような声で答えました。「ええ、ええ、もちろんです。わたしの息子です」
 「彼にはすばらしいユーモアのセンスがあって、豊かな笑い声が印象的ですね。この意味がおわかりですか?」
 「はい、そのとおりです」
 「彼のユーモア・センスは辛口で、ちょっと皮肉っぽい。違いますか?」
 女性はうなずいて肯定しました。本当に息子と交信しているのだとわかったらしく、微笑を浮かべていました。
 「ダイアンによろしくと言ってますよ。なんだかパーティーの話をしていますね」
 「ダイアンは息子のガールフレンドでした」
 女性はパーティーについて考えていましたが、何も思い当たらないようでした。ところが、不意に大声をあげたのです。「そうだわ! 息子が死んだ晩、ダイアンは息子と一緒にパーティーにでかけたんだった。ふたりはお友達のパーティーに行ったんです」
 「息子さんは、すべりやすい道路を走るバイクについて示しています。どういうことかおわかりですか〜」
 「はい」
 「彼はカーブを猛スピードで曲がって、それから坂道を下った。ふむ、なるほど……息子さんはほろ酔い気分でこのバイクに乗っていたようですよ」
 女性は黙ってうなずきながらじっと聞き入っていました。
 「“グリーンリーフ”というのはなんのことでしょう? その名前が付いた標識のようなものを息子さんが示しているのですが」
 女性は答えてくれました。「それは、息子が事故にあった通りの名前です」
 「なるほど。今度は黒っぽいブルーの車を見せていますね。彼のバイクが横すべりしてこの青い車にぶつかったんですか?」
 「はい、そうです。スティーヴンはバイクから投げだされて車の下敷きになってしまったんです」彼女はまたもや泣きくずれました。
 「スティーヴンは学校の記念アルバムに載った彼の写真がとても気に入っているそうですよ。写真の下の題字もきれいだ、と」
 「ええ、ほんとに。うちの居間に同じ写真を飾ってるくらいですもの」
 「彼からあなたに大事な話があるそうです。あなたは彼が死んだことでずっと自分を責めてきたが、それは間違っている。あなたにはなんの責任もないのだ、と」
 「でも、あの晩、わたしが電話さえしていれば、あの子はパーティーには行かなかったかもしれない」
 「どっちみち、ぼくはでかけただろう、とスティーヴンは言ってますよ。いつだって自分のやりたいことをやってきたんだから」
 「ええ、あの子はそういう子でした。そのとおりですわ。たぶん、あの事故は防ぎようがなかったんでしょうね。ただ、わたしには何もできなかったって思うと、つらくてつらくてたまらないんです」
 「ええ、でも、あなたのせいではないということがわかっていただけますか?」
 「はい。おかげさまで、やっと納得できました」彼女は軽く一礼して、さらに耳を傾けました。
 スティーヴンは父親と妹にもわかるような証拠をいくつか語りました。
 その時点までは一般のリーディングと大差はありませんでした。しかし、次に示された情報はきわめて興味深く、信じがたいものでした。スティーヴンには優れたコミュニケーションの能力があったのです。彼は偉大な交信者であり、冗談好きの明るい性格でさまざまな細かい事柄を描写することができました。
 「スティーヴンが友達全員によろしく伝えてほしいと言ってます。驚いたな、彼はずいぶんと友達が多い!」
 「ええ、そうなんです」
 「友人たちが彼のために独自の葬儀を開いたことはご存じですか?」
 「さあ、それは知りません。ただ……皆さんで事故現場に花を供えてはくれましたが、ほかのことは……」
 「スティーヴンはJ・Dというイニシャルを示しています。誰かが乾杯の挨拶をしてますね。これはいったいどういう意味なのかな?」
 女性が急に笑い声をあげて叫びました。「ああ、そうだったわ。お友達が何人か墓地の塀を乗り越えて、スティーヴンの墓の上に〈ジャック・ダニエル〉の壜を置いてったんです。あれも一種の葬儀なんでしょうね」
 部屋にいた人びとがいっせいに笑いだし、その女性のそばに行って彼女を抱きしめました。スティーヴンはこれからいつもそばにいるし、何も心配することはないと母親を元気づけたのです。母親は天井を仰いで、直接スティーヴンに話しかけました。彼女は息子の死を受け入れただけでなく、不合理な自責の念からも解放されたのです。今も息子に見守られていると知って大きな満足感に浸ることができたのです。

  ジェームズ・プラグ『もういちど会えたら』(中井京子訳)光文社、1998、pp.105-109






  b-13 (亡くなった妻からのお詫びのことば)

 もうひとつ、この世で生きている私たちにとって、貴重なメッセージを含んだリーディングをご紹介しておきましょう。妻をガンで亡くしたばかりの男性の実例の一部です。

 「非常に活発な女性でしたね」
 「はい」
 「病気のために活動できなくて、イライラしていました。彼女は根本的には気が短いんですが、ふだんはそれをおさえて、忍耐強くふるまっていました。だけど、病気との戦いがたいへんで、そのためにバランスを失っていましたね。『最後にいろいろ、聞きわけのないことばかり言ってごめんなさい。せっかく結婚して幸せになれたのに、病気で死ななきゃならないなんて、あまりにもひどい。それに怒っていたの』と言って、あなたにあやまっています」

 この言葉を聞くと、それまで陽気にふるまい、必死に涙をこらえていたその男性は、激しく泣きはじめました。このとき、彼の脳裏にあったのは、入院生活の最後の方で、妻の要望に応えて買ってきたCDプレイヤー付きのカセットデッキに、妻が「私が欲しいのはこんなのじゃない」と文句をつけ、当たりちらしたことだったのだそうです。
 それまでは、妻のそんな姿を見たことがなかっただけに、病気が進行してつらいんだろう、と悲しい思いをしたのだそうです。

 「奥さんが、こう言っています。『私はあなたに会うまで、苦労の多い人生でした。あなたに会って、とても幸せになれたから、死ぬときには無念の思いがありました。だから、死んだばかりのときは怒っていたのよ。死後の世界があるのはわかったけれど、肉体的にあなたや娘と別れてしまっては、どうしようもないじゃない。でも、今は、それを克服しています。あなたと娘を、あの世から見守っています』」
 「はい」
 「『悲しいのは、あなたひとりじゃない。私が、いつもそばにいるわよ。孤独じゃないのよ。どうしてこんな目にあうんだ、などと、あまり否定的に考えないで』」
 「はい」
 「『私が死んだことの悲しみが消える日はないと思うけど、あなたにはあなたの人生があります。このリーディングを節目に、新しい生活にふみ出して。もう、生きるのもいやだという気持ちがあるのは知っているけど、その気持ちは乗りこえてください。あなたとすごした時間は、いつまでも、宝物のように大切にしているから』と言っています」
 「はい」
 「結婚記念日が近いですか」
 「はい」
 「ピンクのバラをあなたにさし出しています。『その日は、いつもよりもっと、あなたのそばにいるから』と言っています」
 「はい」
 「彼女とあなたを比べると、あなたのほうが信仰心がありましたか」
 「はい、そうですね」
 「彼女の家庭は、信仰心とか霊性を重視しませんでした。彼女のお父さんは、彼女に対して厳格でした。お父さんは、娘を理解しようという努力をおこたっていたようです。だから、父と娘の間には、コミュニケーションが不足していました。でも、今はあちらで、お父さんと一緒にいて、おたがいに理解し合っていますよ」
 「なるほど、そうですか」
 「神社で、彼女の名前を書きましたか」
 「はい」
 「絵馬のようなものが見えます。彼女の、あの世での平安を祈るようなことを書きましたね」
 「はい」
 「その気持ちは、彼女にまちがいなく届いています。あなたのことを、彼女が光でつつんでいます」
 「はい」
 「あの世では時間の観念がないから、『あなたと娘が来るのをいつまでも待っているわ』と言っています」
 「はい」
 「彼女のお墓に行って、彼女に語りかけましたか」
 「はい。娘がこんなことをしゃべるようになったとか、いろいろと報告しています」
 「『私はいつもあなたたちのそばにいるから、わざわざ報告しなくても、わかっているのよ。でも、ありがとう。私はお墓の中にはいないけど、あなたが来たときにはわかるから、そのときはあなたのそばにいつもいるわ』、と言っています」

    飯田史彦『生きがいの創造』PHP研究所、1996、pp.212-216





 b-14 (パーティーの帰りに自動車事故で急死した友人)

 土曜日の夜遅く、あるグループの交霊会をそろそろ終わりにしようとしたやさき、わたしは向かい側のソファに腰かけている女性ふたり男性ひとりのほうへ顔を向けました。三人に共通の結びつきがあることはわかりました。わたしはまんなかの女性に声をかけました。
 「失礼ですが、ちょっとよろしいですか?」
 「はい」とその女性は答えました。
 「あなたと同年配の若い女の人が来ています。彼女は少し動揺している感じですね。なんだか、悩み事があるようだ。ステイシーという名前をご存じですか?」
 「はい、彼女と一緒に学校へ通いましたけど」
 「どうやら急死なさったようですね。彼女はわたしにガラスと血を見せて、それから自分の頭を指さしている。覚悟も何もできていない突然の死だった。思い当たることがありますか?」
 「ええ、確かにそうです。わたし、ここにすわりながら、彼女のことを考えてたんですよ」
 「こんな絶好の機会を見逃すわけはないって、彼女はそう言ってますよ。なるほど、彼女はパーティー大好き少女だったんですね」
 「ええ、そうです」
 「学校では人気者だったらしい。それに、パーティーにはひっぱりだこだった」
 その場にいた全員が笑いだしました。
 「死ぬ直前、まるで麻薬かお酒でも飲んだみたいに、頭が朦朧としていた。彼女は車のなかにいます。頭にものすごい衝撃を受けた。ガラスの破片と多量の血が見えます。どうやら、彼女は車の事故にあったようですね。言いにくいことですが、どうも彼女はフロントガラスを突き抜けていったような感じがします」
 ふたりの女性が大声で叫びだしました。「そのとおりです」
 「事故は交差点で起こったと彼女が言っています。パーティーにでかけて、『めちゃくちゃハイ』になっていたそうだ」
 「ええ」
 「あなたがたふたりを知っていると言ってます。そうなんですか?」
 「はい、確かに。わたしたち、みんな同じ学校だったんです」
 今度は、ソファにいるもうひとりの女性ジュリーに質問を向けました。
 「ステイシーがあなたたち三人の写真を見せています。そういう写真をお持ちですか?」
 「ええ、さっき見ていたところですもの」
 「これは妙だな。彼女はスポーツウェアのようなものを見せていますよ。フットボールか、あるいは、何か学校のスポーツに関係したものだろうか。セーターに文字が入っています」
 ジュリーが答えてくれました。「わたしたち、学校でチアリーダーをやってました。わたしが見ていたのはチアリーダーのときの写真です。三人がおそろいのユニフォームを着てる写真。ユニフォームの中央にロゴが入ってます」
 わたしは額をぬぐって安堵の息を洩らしました。霊の情報を理解してもらえてうれしかったのです。
 わたしは先を続けました。「彼女は昔からお母さんになりたかったそうです」
 「そのとおりです。彼女、結婚して子供を産む話や、家族そろってこんなことがしたい、あんなことがやりたいって、いつも話してたわ」
 「今いるところでも子供の世話をしているそうですよ。ソーシャルワーカーのような仕事で、とてもやりがいがあるそうだ」
 ふたりの女性は互いにうなずきあって笑顔を浮かべました。ところが、ここで急にステイシーの気分が変わってきたのです。
 「なんだか変ですね。彼女がとても陰鬱な感じを伝えてくるし、泣きだしています。あなたがたふたりに対して取った行動をひどく悔やんでいるようだ。彼女はこう言っています――彼女の表現をそのまま伝えますけど――あたしって、あんたたちに冷たく当たって、ほんとにいやな女だったわ」
 ふたりはそろってうなずきました。
 「彼女があなたたちとのつきあいをやめたのは、学校でもっと人気のある華やかな仲間と一緒にいたかったからだそうです。自分は嫉妬深い性格で、ついつい人と衝突してしまう。あたしはいつも人の関心を集めていたかった、と言ってます。あなたたちはしばらく彼女と口をきかなかったんですか?」
 「ええ、そうなんです。彼女が亡くなる数か月前から話をしなくなっていました」
 「申しわけなかったとステイシーが言ってますよ。あたしが間違っていた。どうかあたしの行為を許してほしい。学校で一番の人気者になることばかりに心を奪われて、ほかの人の気持ちなんて考えもしなかった。実にばかげたことだった」
 女性たちが泣きだしました。
 「彼女を許してやってくれませんか? 自分の過去の行為にずっと悩んできたんです」
 「ええ、もちろん、許しますよ」とジュリーが言いました。
 「あなたがたの心の痛みが手に取るようにわかるそうです。あなたたちに対する仕打ちを体験してみて、自分のやったことがいやでたまらない、と」
 女性たちは涙をぬぐいました。
 「ジュリー、あなたはお隣りの青年とこの夏に結婚なさったんですね?」
 「ええ、八月に」
 「花嫁の付添人のなかにステイシーがいてくれたらよかったとは思いませんでしたか?」
 「はい。確かにそう思いました。なんだか、すごいですね」
 「ステイシーがピンク色のドレスを見せてくれています。髪をピンクのリボンで結んでいますよ」
 ジュリーが叫び声をあげた。「まあ、なんてことでしょ、付添人にはピンクのドレスを着てもらったんです。みんな、髪にピンクのリボンを付けて」
 「霊としてあなたの結婚式に出席していたのだとステイシーが言っています。それから、こうも言ってるな、『あたし抜きでパーティーができると思ってた?』って」
 このひとことで全員がどっと笑い、ステイシーの来訪に感謝しました。一方、ステイシーは友人たちの不朽の愛と寛大な心に感謝を示しました。その瞬間、わたしの目には、友人たちのそばに駆け寄ってひとりひとりに抱きつくステイシーの姿が見えました。そして、彼女はわたしににっこり微笑んで感謝を伝えたのです。彼女はゆっくりとエーテル界に消えていきました。数分のあいだ、人びとはこのすばらしい体験の感慨に浸り、それぞれに感じた愛と安らぎを味わっていました。

   ジェームズ・プラグ『もういちど会えたら』(中井京子訳)光文社、1998、pp.110-114





 b-15(亡くなった母と再会し共に暮らす日を楽しみに)

 四番めのリーディングのさいちゆうに女性の霊が話しかけてきました。
 「今ここにご婦人がいらしてます。メキシコで亡くなったそうです。どなたか心当たりのある方はいらっしゃいませんか?」
 返事がなかったのでわたしは先を続けました。
 「この女性は自動車事故にあったそうです。バスが関係しているようだ。ああ、彼女はバスに衝突したんですね。どなたか思い当たる方はいませんか?」
 しかし、今度もまた返事はありませんでした。誰も心当たりがないというのは非常に珍しいことです。こういう場合、あとになってわかるのですが、情報の内容に気づいている人が聴衆のなかにいても、その正確さに唖然として、公開の場で個人的な内容をさらけだしたくないか、あるいは、そのイベントが終了するまで情報の意味が正しく理解できていないのです。
 その夜の場合は後者でした。二時間のデモンストレーションが終わってわたしは参加者に別れを告げ、荷物をまとめていると、黒髪の男性が自己紹介してきました。
 「失礼、ぼくはエド・オーガーといいます」
 「どうも。それで、何か?」とわたしは答えました。
 「さっきのメキシコの女の人の話なんですけど、ひょっとしたらぼくに関係あるんじゃないかと思いまして。母がメキシコで交通事故にあって亡くなったんですけど、ただ、バスではなかったんです。相手はトラックだったんですが」
 「いいえ、あのご婦人は確かにバスを示していましたよ。車体の横に何か文字のようなものが書いてあるバスだった。トラックに間違いないんですか?」
 「ええ、たぶん。でも、父に訊いて確認してみます。ありがとうございました」
 そして、わたしたちは会場を出て別れました。一カ月後、そのエドから緊急の電話をもらいました。メキシコにいる父親に話したところ、母親の事故の相手は実はバスだったというのです。父親は事故を報道した新聞記事のコピーまで送ってきました。エドは母親の情報をすぐに受け取ってやれなかったことでひどく心を痛め、母が狼狽してはいないだろうかと気に病んでいました。事故の当時、彼はまだ二歳だったので細かい情報までは確信がなかったというのです。エドがほとんど覚えてすらいない母親に再会できることを祈りつつ、わたしは彼と会う約束をしました。
 「エド、あなたのお母さんはとても美しい人でしたね。きれいな茶色の瞳、髪の毛は焦げ茶色だった。その髪を後ろに束ねていますよ」
 「母の写真は二枚しか持ってないんですけど、確かにそんな感じの女性です」とエドが答えました。
 「おや、そんなはずはないって、お母さんが言ってますよ。あなたの居間にもう一枚あるはずだって」
 「いえ、それは違うと思うけど」
 「普通の写真ではないそうです。何か特別のものらしい。変だな、あなたのお父さんと結婚する前のものだと言ってますね。お母さんの絵か何かがありませんか?」
 「ああ、そうだ、そうですよ。母が十九歳のときの肖像画が居間に飾ってあります。父と出会ったすぐあとに描かれたものです」
 「お母さんが笑ってますよ。あなたの居間にあるものはどれも好みがうるさすぎるって。仮面のようなものもいくつか見せてくれています。部族の仮面だな」
 「ええ、母の肖像画の向かい側の壁に掛けてあります。アフリカの部族の仮面を集めてるんですよ。しかし、驚いたな!」
 「お母さんがお父さんの話をしています。お父さんが勲章を持っているという話ですね。待ってください、内容を整理しますから。ああ、なるほど、あなたのお父さんは何か受章していませんか? リボンの付いた勲章とか?」
 エドにはわかりませんでした。
 「お母さんは大変有力な一族のご出身だったんですね。政治的名声があったようです。この意味が通じますか?」
 「はい、そのとおりです。母の父親はメキシコで市長にあたる身分でした。名声のある有力者だったようです」
 「お母さんは自分の名前をわたしに伝えようとしています。三つに分かれた名前ですね。スベィン語だ。ひとつはカミールかカミーラと聞こえます」
 「信じられない。母の名はカミーラ・ドロレス・ガーダです」
 「ああ、なるほど。いや、けっこうです。あなたのお母さんは非常に優れた交信者だ」
 そこで数分の沈黙が流れました。
 「これは申しあげにくいことなんですが、受け取った内容はそのまま伝えなければなりません。わたしは検閲まがいのことはしませんので」
 「ええ、かまいません。どうぞ」
 「あなたのお母さんは仕方なく結婚なさったんでしょうか?」
 「どういう意味です?」
 「つまり、強要された結婚というようなことをお母さんが言ってるんですよ」
 エドはショックで呆然としていました。そんな話は初耳で、とても信じられなかったようです。わたしは、霊の交信を正しく聞き取っていない可能性もあるので、お父さんに訊いてみてくださいと言いました。リーディングはさらにしばらく続きました。母親はダイヤの指輪の話をし、金融界で働くエドの仕事や彼の最近の行動について語りました。
 エドはこの交霊会に満足して帰りましたが、当然、困惑も残していました。数日後、電話が入り、交霊会の内容について父親に話したと報告してくれました。父親は勲章を確かに持っていました。軍隊で授与された勲章です。亡き妻に送ったダイヤの指輪と一緒に、その勲章を寝室の引き出しにしまっていました。
 さらに、結婚の強要という例のメッセージについてもエドは説明してくれました。エドの母親が死んで二年後、実は父親が再婚していたことがわかりました。相手の女性が妊娠したために結婚せざるをえなかった、と父親がエドに語ったそうです。結婚しなければ一族の名誉に傷がつくからです。父親は誰にも打ち明けず、この事実を一族の秘密として守りとおしてきたというのです。
 エドは間違いなく自分の母親と交信したのだと確信しました。母は今もずっとそばにいて、いずれ彼自身、霊界に帰るときが来ればそこで母が待っていてくれる。それがわかって彼は満足だったのです。やがて母親と再会し、共にいつまでも暮らす日が今から楽しみでならない、とエドは言いました。

   ジェームズ・プラグ『もういちど会えたら』(中井京子訳)光文社、1998、pp.120-125





 b-16 (退行催眠により患者から引き出された真実)

 彼女の頭がゆっくりと左右に揺れ始めた。何かの情景を調べているようだった。彼女の声がまたしわがれた大声になった。
 「神はたくさんいる。なぜなら、神は我々一人ひとりの中にあるからだ」
 私はこの声は中間生から来ているのだと思った。しわがれた声になり、メッセージが急に確信に満ちた霊的な調子になったからだ。次に彼女の口から発せられた言葉に、私は息が止まり、心臓が引っくり返ってしまった。
 「あなたのお父様がここにいます。あなたの小さな息子さんもいます。アブロムという名前を言えば、あなたにわかるはずだと、あなたのお父様は言っています。お嬢さんの名前はお父様の名前からとったそうですね。また、彼は心臓の病気で死んだのです。息子さんの心臓も大変でした。心臓が鳥の心臓のように、逆さになっていたのです。息子さんは愛の心が深く、あなたのために犠牲的な役割を果したのです。彼の魂は非常に進化した魂なのです。……彼の死は、両親のカルマの負債を返しました。さらに、あなたに、医学の分野にも限界があること、その範囲は非常に限られたものであることを、彼は教えたかったのです」
 キャサリンは話すのをやめ、私はおごそかな沈黙の中にすわり込んでいた。そして、ぼんやりした頭で、必死で考えようとしていた。部屋の中が氷のように冷たく感じられた。
 キャサリンは私の個人的な生活については、ほとんど知らなかった。私の机の上には赤ん坊の娘の写真が飾ってあった。娘は幸せそうに笑って、下の二本だけ生えた歯がのぞいていた。息子の写真がその隣りにあった。それ以外は、キャサリンは私の家族も、私の個人的なできごとについても、本当に何一つ知らなかった。私は伝統的な精神療法のテクニックをしっかりと教え込まれていた。患者が自分の感情や考えや態度を投影することができるように、精神科医は白紙のようなものであるべきだとされていた。そうすれば精神科医は、投影されたものを患者の心を拡大しながら、分析することができるのだ。だから私は、意識的にキャサリンとの間に、距離を置いてきていた。彼女は私をただ、精神科医として知っているだけで、私の過去や個人的な生活については、何一つ知らなかった。私は自分の学位証書ですら、診察室に飾っていなかった。
 私の人生最大の悲劇は、一九七一年に起こった。私の初めての息子が、生まれてたった二十三日で死んでしまったのだ。その子の名前はアダムと言った。赤ん坊を家へ連れ帰ってから十日ほどたった頃、彼は呼吸困難を起こし、さかんに吐くようになった。診断をつけるのはきわめて難しかった。「心房隔壁欠損を伴う肺の静脈排血異常」だと言われた。一千万人に一人の異常だそうだ。肺静脈、すなわち、酸素を取り入れた血液を心臓へ送り返すはずの血管が、誤って心臓の逆の方へつながってしまっていたのだ。ちょうど、心臓が後ろの方へ引っくり返ったようになっていた。本当に、ごくごくまれなケースだった。
 思いきって開胸手術をしてみたが、それもアダムの命を救うことはできず、彼は数日後に亡くなった。私達は何か月も嘆き悲しんでいた。夢も希望も打ち砕かれた思いだった。一年後に息子のジョーダンが生まれ、私達の傷をやっといやしてくれたのだった。
 アダムが亡くなった頃、私は精神科医になろうと決心したことがよかったかどうか、迷っていた。内科のインターンの仕事は楽しかったし、内科の研修医にならないかと誘われていた。アダムが死んで、私ははっきりと、精神科医を自分の仕事としようと決心したのだった。近代医学がその最新の知識と技術をもってしても、私のけなげな小さい息子の命を救えなかったことに、私は腹を立てていた。
 私の父は一九七九年のはじめに、六十一歳でひどい心臓発作に見舞われるまでは、健康そのものだった。最初の発作はどうにか持ちこたえたものの、心臓の壁が回復不可能なほどだめになり、三日後に亡くなった。これは、キャサリンの最初の診察の約九か月前のことであった。
 私の父は宗教心の厚い人だったが、精神的なことよりは、儀式を重んじる方だった。彼のヘブライ名はアブロムと言い、英語名のアルビンより、ずっと彼には似合っていた。彼の死後、四か月たって、娘のエイミイが生まれた。彼女の名前は、父のアブロムにちなんで命名されたのだった。
 今、一九八二年、私のうす暗い静かな診察室で、隠されていた秘密の真実が、耳をろうする滝の如く、私の上に降り注いでいた。私は霊的な海を泳いでいるような思いがした。水は心地よかった。鳥肌が立つ思いだった。こうした情報をキャサリンが知っているはずがなかった。どこかで調べることができるようなことでもなかった。父のヘブライ名、一千万人に一人という心臓の欠陥のために死んだ息子のこと、私の医学に対する不信感、父の死、娘の命名のいきさつ、どれもあまりにも個人的なプライバシーに関する事柄ばかりだった。しかも、どれも正確だった。この何も知らない検査技師の女性は、超自然的な知識を伝える導管なのだ。もし、彼女がこんな事実を明らかにできるのであれば、他にどんなことがわかるのだろうか? 私はもっと知りたかった。
 「誰?」。私はあわてて言った。「誰がそこにいるのですか?誰がこんなことをあなたに教えてくれるのですか?」
 「マスター達です」と彼女は小声で言った。
 「マスターの精霊達が私に教えてくれます。彼らは私が肉体を持って八十六回、生まれていると言っています」
 キャサリンの呼吸が遅くなった。彼女の頭の揺れが止まった。彼女は休息していた。私はもっと続けたかったが、彼女が言ったことの意味が気になっていた。本当に、彼女に八十六回の前世があったのだろうか?マスター連≠ニは、一体、何者なのだろう?こんなことがあり得るのだろうか? 我々の人生は、肉体を持たないが、すばらしい英知をもっている精霊達によって、導かれているのだろうか? 神へ近づくための段階があるのだろうか? これは現実なのだろうか? 彼女が明かしたことから考えると、疑うのは難しかったが、それでもまだ、私はなかなか信じられなかった。何年間もの間、プログラムされてきた考え方を、私はくつがえさなければならなかった。しかし、私の頭も心も体も、彼女の言っていることは正しいと知っていた。彼女は真実を語っているのだ。
 では、私の父と息子のことは何なのだろう? ある意味で、二人はまだ生きているのだ。本当は死んでいないのだ。葬られて何年もしてから、二人は私に話しかけ、他人の知らない特別の秘密を知らせて、本当に自分達であることを証明したのだ。そして、そのすべてが事実と合っていたのだから、息子はキャサリンが言ったように、進化した魂の持主だったのだろうか? 本当に、彼は自分で同意して私達のところに生まれ、たった二十三日で死に、それによって私達がカルマの負債を返す手助けをし、さらに、私に医学と人間のことを教えて、精神科医になるよう決心を促してくれたのだろうか? このように考えると、私の心の中にとても温かいものがあふれてきた。寒気を感じているそのもっと奥で、私は大きな愛が動いているのを感じていた。それとともに、すべてのものとの一体感と、天地とともにある感覚を強く感じていた。父と亡くなった息子がとてもいとおしく感じられた。二人が私に連絡してくれたことが、本当にうれしかった。

    ブライアン・ワイス『前世療法』、山川紘矢他訳、PHP研究所、1996、pp.56-61





 b-17 (そして患者は高い次元からの言葉も伝えた)

 何分もかからずに、彼女は深い催眠状態に入っていった。
 「崖のようなものが見えます。私はその崖の上から下を見下ろしています。船を探しています。それが私の役目なのです。……私は青い服を着ています。それに青いズボン、……ショートパンツに妙な形の靴をはいています。……黒い靴で……、バックルで留める靴です。とても妙なバックルで、すごく変な靴です……私は地平線の方を見ていますが、船は見えません」。
 キャサリンはささやくように語った。私は時間を進めて、この人生で起きた次の重要なできごとへと彼女を行かせた。
 「私達はビールを飲んでいます。黒ビールです。とっても黒い色をしています。ビールのジョッキは分厚くて、古くて、金属の輪っかがはめられています。この場所はすごくカビくさくて、人がたくさんいます。すごく騒がしい。みんながしゃべっていて、すごくうるさい所です」
 誰かが彼女の名前を呼ぶのが聞こえないかと、私は質問した。
 「クリスチャン……、クリスチャンというのが私の名前です」。今度も彼女は男だった。
 「私達は今、何かの肉を食べて、ビールを飲んでいます。ビールはとても黒くて、苦い味がします。塩をビールの中に入れています」
 いつの時代かはわからなかった。
 「人々は戦争のことを話しています。どこかの港を船で封鎖しているとか言っています。どこの港かは聞き取れません。もう少し静かならば、聞き取れるのですが。みんなが大声で話していて、すごくうるさいのです」
 私は彼女のいる場所の地名を質問した。
 「ハムステッド……、ハムステッド(発音のまま)港です。ウェールズの港町です。人々は英語を話しています」
 再び時間を進めて、クリスチャンが船に乗っている場面となった。
 「何かにおいます。何かが燃えているにおいです。すごいにおいだ。木が燃えるにおいだけれど、他のにおいもする。鼻が変になりそう。……遠くの方で何か燃えています。何かの船、帆船です。私達は弾丸をつめています。火薬のまじったものをつめています」
 キャサリンはすごく興奮し始めた。
 「火薬のまじったものです。色は真黒です。手にベタべタします。早く動かないといけません。船には緑色の旗が立っています。旗は濃い色をしていて……緑色と黄色の旗です。三本先のとんがった王冠がついています」
 突然、キャサリンは痛みに顔をゆがめた。彼女は苦しみもだえた。
 「ああ」と彼女はうめいた。
 「手が痛い、ものすごく痛い! 何か金属が、熱い金属が手にささっている。手が焼けてしまう! ああ、ああ!」
 私は彼女の夢のことを思い出し、赤いヒレが手にささったという話の意味がわかった。私が暗示をかけて痛みを止めても、彼女はまだうめいていた。
 「金属の破片だ……私達の船は撃破された……港のそばで。火は消したけれど、たくさんの人が殺された……たくさんの人が。私は何とか生き残れた……ただ、とても手が痛い。でも時がたてば、なおります」。私は彼女の時間を先へ進め、次の重要事件を彼女に探させた。
 「印刷工場みたいな所が見えます。版木とインクで何かを印刷しています。本を印刷して製本しています。……本には革の表紙がついていて、革ひもでとじるようになっています。赤い本が見えます。……歴史の本です。本の題名は見えません。まだ、印刷が終わっていないのです。本はとてもすばらしいです。表紙は革で、すべすべしています。すばらしい本です。ためになる本です」
 クリスチャンは本を見たりさわったりして、楽しんでいるらしかった。彼は本で学ぶということに、少し気づいているようだった。しかし、彼はほとんど教育を受けたことがないようだった。私はクリスチャンを彼の人生の最期の日まで進ませた。
 「川に橋がかかっています。私は老人です。……とても年をとりました。歩くのも大変です。私は橋の上を歩いています。……向こう側へ行くのです。……胸が痛い。圧迫感が、ひどい圧迫感がある……胸が痛い! ああ!」。キャサリンはあえぎ、クリスチャンが橋の上で起こした心臓マヒを、そのまま体験していた。彼女の呼吸は速く、浅くなった。顔や首が汗だらけになった。咳込んで、空気を求めてあえいでいた。私は心配になった。前世で起こした心臓マヒを再体験するのは、危険なことなのだろうか? これはまったく未知の分野だった。誰も答えを知らなかった。とうとう、クリスチャンは死んだ。キャサリンは長いすの上に、静かに横になっていた。呼吸は深く規則正しくなった。私もほっと安堵のため息をついた。
 「私は自由です……自由を感じています」。キャサリンがやさしくささやいた。
 「私は暗闇の中に漂っています。ただ、漂っています。まわりに光が見えます。・・・・・・そして精霊達、他の人々が見えます」
 今終わったばかりの人生、クリスチャンとして生きた人生について、何か思う所があるかどうか、私は彼女に聞いてみた。
 「私はもっと寛大であるべきでした。私は寛大ではありませんでした。人が私に何か悪いことをすると、絶対にそれを許さなかったのです。でも、許すべきでした。悪や過ちを許しませんでした。その気持ちを自分の中にため込んで、何年もずっと、恨んでいました。……眼が見えます、眼が」
 「眼?」。マスター達が現われる気配を感じて、私は彼女の言葉をくり返した。
 「どんな眼ですか?」
 「マスター達の眼です」とキャサリンはささやいた。
 「でも、私は待っていなければなりません。もっと考えてみなければならないことがあるのです」。張りつめた空気のうちに、何分かが経過した。
 「彼らが出てくる時、あなたはどうしてそれがわかるのですか?」。長い沈黙を破って、私はわくわくしながら開いた。
 「私を呼ぶのです」と彼女は答えた。さらに何分かたった。すると突然、彼女の頭が左右に揺れ始め、彼女の声がしわがれた自信に満ちた声に変わった。
 「この次元には、数多くの魂がいます。私だけではありません。私達は忍耐強くなければなりません。これは私とても、まだどうしても学び切れないことです……ここには数多くの次元が存在します・・・・・」。私は彼女に、前にそこにいたことがあるかどうか、質問した。
 「その時々によって、様々な次元に行きます。それぞれが、高次の意識のレベルの一つなのです。どの次元に行くかは、私達がどれぐらい進歩したかによります」。彼女は再び沈黙した。進歩するために何を学ばなければならないのかと、私は彼女に質問した。彼女はすぐに答えた。
 「私達の知識を他の人々と分かち合わなければならないということです。私達はみな、今活用している能力よりも、ずっと大きな力をもっています。ある人々はこのことを、他の人達よりずっと速く学びます。ここまで来る前に、あなた方は自分の欠点に気がつかねばなりません。もしそれを怠ると、次の人生に、その欠点を持ち越すことになります。自分でため込んだ悪癖は、肉体を持っている時にだけ、取り除くことができるのです。マスター達が私達のかわりにやってくれるわけではありません。もしあなたが争いを選び、しかもそのくせを取り除こうとしなければ、それは他の転生に持ち越されます。そして、自分はその間題を克服することができると自分で決めた時には、もはや次の人生に持ち越すことはありません」
 「また、私達は自分と同じバイブレーションをもつ人とだけ、つき合っていればよいというわけではありません。自分と同じレベルの人に魅かれるのは、あたり前のことです。しかし、これは誤りです。自分のバイブレーションと合わない人達とつき合うことも、必要なのです。このような人々を助けることが大切なのです」
 「私達は直感的な力を与えられていて、その力に抵抗せずに従うべきなのです。その力に抵抗する者は、危険に遭います。私達は同じ能力をもって、各段階から物質界に送り返されてくるわけではありません。ある人々は他の人々より大きな力をもっていますが、それは前世で徳を積んだからです。このような視点から見れば、人はみな平等に作られているとは言えません。しかし結局は、私達はみな平等になる所まで行き着くのです」
 キャサリンは一息ついた。今の話が彼女のものではないことを、私は知っていた。彼女は物理学も哲学も学んだことはなかった。段階とか次元とかバイブレーション等のことは、何も知らなかった。しかしそれよりも、彼女の言葉や思想の美しさ、その哲学的な含蓄は、キャサリンの能力をはるかに越えていた。こんなに簡潔に、しかも詩的にものごとを言い表わせるはずがなかった。彼女とは別の次元の高い力が、彼女の心に働きかけ、言葉を選ばせて思想を言語化し、私に理解できるようにしているに違いないと、私は感じていた。これはキャサリンではなかった。

  ブライアン・ワイス『前世療法』、山川紘矢他訳、PHP研究所、1996、pp.69-75





  b-18 (近似死体験をして生き返った人々の具体例)

 昏睡状態にある人は、物質界でどの程度、学ぶべきことを学び終わったかによって、生き返るか否か、自分で決めることができるのだ。もし、もうこれ以上学ぶべきことはないと感じれば、近代医学が何をしようと、直接霊界へ行くことができるのだ。これは、近似死体験をして生き返った多くの人々の体験を研究した本に書かれている話とうまくかみ合っていた。だが、この選択の自由が与えられていない人もいる。彼らはもっと学ぶために、この世に戻ってこなければならないのだ。もちろん、近似死体験についてインタビューされた人々は全員、自分の体に戻ってきている。彼らの体験には、びっくりするほどの共通性があった。彼らはまず、自分の肉体を離れ、みんなが自分を生き返らせようと努力している様子を、上の方から眺める。そのうち、まばゆい光か、または光輝いている霊体が遠くの方にあるのに気がつく。トンネルの向こう側にそれが見える場合もある。痛みはまったく感じない。自分の地上での役割がまだ完成していないこと、すなわち、自分の体に戻らなければならないことに気がつくと、そのとたんに、体と再び合体し、痛みや他の肉体的な感覚がよみがえってくる。
 私は近似死体験をした患者を何人か診たことがあった。キャサリンの治療が終わって約二年後に会ったアフリカに住む有能なビジネスマン、ヤコブの例が、中でも一番興味深かった。彼は私の所へ、通常の精神療法を受けにやって来た。ヤコブはまだ三十代前半の頃、一九七五年に、オランダでオートバイにひかれ、意識を失った。彼が覚えているのは、自分が自分の体の上に浮き上がって、事故の場面を眺めている所だった。そして、救急車や、彼のけがの手当をしている医者や、どんどん集まってくるヤジ馬を見ていた。そのうち、遠くの方に金色の光があるのに気がついた。そちらの方に近づくと、一人の茶色い僧服を着た修道士が見えた。その修道士はヤコブに、今はまだ死ぬ時ではない、自分の肉体に戻らなければいけない、と言った。ヤコブはその修道士のもつ知恵と力を感じ、自分の将来のできごとに深い関わりをもつ人物だと思った。あとでそれは全部、本当だとわかった。ヤコブは自分の肉体に押し込まれるようにして戻り、病院のベッドの上で、意識を回復した。そして初めて、耐え難いほどの痛みに気がついたのだった。
 一九八〇年、イスラエルを旅行していた時、ユダヤ人のヤコブはヘブロンのハトリアークの洞穴を訪ねた。ここは、ユダヤ教と回教の聖地である。オランダで事故にあってから、彼は前よりも信心深くなり、お祈りの回数も増えていた。近くに回教寺院があったので、彼はそこにすわりこみ、回教徒と一緒に祈った。しばらくしてから、彼はそこを出ようとして立ち上がった。その時、一人の年とった回教徒の男が彼の所へやってきて言った。
 「あなたは他の人とは違いますね。他の人達は、我々と一緒に祈ったりしません」。その老人はしばらく黙ったまま、じっとヤコブの顔を見つめていた。それから、また、言葉を続けた。
 「あなたは修道士に会ったことがありますね。彼が言ったことを忘れてはいけませんよ」。事故の五年後、しかも何千マイルも離れた場所で、老人は意識を失っている間にヤコブが会った修道士のことを知っていたのだった。

   ブライアン・ワイス『前世療法』、山川紘矢他訳、PHP研究所、1996、pp.76-78





 b-19 生と死の時期を自分で選んでいることを教えられる

 「質問があるのですが」
 「誰に?」とキャサリンがたずね返した。
 「誰かに―あなたか、マスター達に」。私は二またをかけておいた。
 「これがわかると、とても役に立つと思うのです。質問はこうです。私達はいつ生まれ、いつ死ぬのか、どんなふうに生まれ、どんなふうに死ぬのか、自分で選ぶのですか? 自分の環境も選べるのでしょうか? 生まれ変わってくる時期も自分で選べるのですか? こうしたことが理解できれば、恐怖がずいぶん少なくなると思うのです。この質問に誰か答えて下さる方は、そこにいませんか?」部屋の中が寒く感じられた。キャサリンが再び口を開いた時、その声は深くひびきのある声になっていた。今まで、聞いたことのない声だった。それは詩人のマスターだった。
 「人間はこの三次元の世界にいつやって来て、いつそこを離れるのか自分で選ぶのだ。こちらの世界へ送られてきた目的を達成した時、我々は自分でそれを知る。自分の時間が終わったのを知り、死を受け入れるのだ。これ以上この人生では何も得ることができないと知るからだ。まだ時間が残っている時には、死にかけてもその間に魂は休息し、エネルギーを再注入されて、再び、肉体へ戻ってくることもある。この世に戻るべきかどうかよくわからない人は、せっかく与えられたチャンスを逃すこともあり得る。肉体を持っている間に果すべき使命を遂行する機会を失うのである」。キャサリンが話しているのではないことは、すぐにわかった。
 「誰が私に話しているのですか?」と私はたずねた。「誰がしゃべっているのですか?」
 キャサリンが、いつものやさしくささやくような声で答えた。
 「私は知りません。誰かとても……ものごとをコントロールしている方の声です。でも、私には誰なのかわかりません。その人の声を聞くことができるだけです。そして彼の言っていることをあなたに伝えています」
 自分が伝えている知識は、自分のものでもなければ、自分の潜在意識や無意識の部分から発しているものでもないことを、彼女はちゃんと知っていた。超意識からでもなかった。聞いたことを、そのまま私に伝えたのであった。その言葉や思想は、特別な存在、「ものごとをコントロールする」誰かのものだった。こうして、また、別のマスターが現われた。今まで知恵に満ちたメッセージを伝えてきてくれたマスターとは、別のマスターだった。新しい精霊で、特徴のある声とスタイルをもち、言葉はまるで詩のようで、透明感にあふれていた。このマスターは、死についてちゅうちょせずに語ったが、その声と思想は愛に満ちていた。その愛は温かい真心が感じられ、しかも毅然とした普遍的なものだった。それは、喜びに満ちていたが、感情的な所も、押しつけがましい所も、束縛するような所も感じられなかった。それは愛情探くそっと見守ってくれる感じ、あるいは、遠くからそっと手を差し出してくれるような感じを伝えていた。そして、どこかで知っているような感覚だった。
 キャサリンの声が次第に大きくなった。
 「私はこの人達を信じていません」
 「誰を信じていないの?」と私は聞いた。
 「マスター達です」
 「信じていないって?」
 「はい、私には信仰心が足りないのです。だから、私の人生には、苦難が多かったのです。その過去生でも、信仰心がなかったのです」。彼女は冷静に、自分の十八世紀の時の人生を評価していた。私は、その人生で何を学んだのか、彼女に聞いてみた。
 「私は怒りと恨み、そして人に対して恨みを抱くことを学びました。自分の人生をどうすることもできないということも学びました。どうにかしたかったのに、どうにもできなかったのです。マスター達をもっと信じなければいけなかったのです。彼らはずっと、私を導いていてくれます。でも、私は信じていませんでした。生まれた時から、自分は不幸に運命づけられていると感じていました。ものごとを明るく見たことがありませんでした。私達は信仰心をもたないといけません。……信仰心が必要なのです。それでも私は疑っています。信じるより、疑うことを選んでいるのです」。彼女は口をつぐんだ。
 「人生をよりよく生きるために、私達は、どうすればよいのですか? 私達の行くべき道は同じですか?」と私はたずねた。それに答えたのは、先週、直感力と昏睡状態の話をしたマスターだった。その声もスタイルも話の調子も、キャサリンのものとも、さっき話していた男性的で詩人のマスターともまったく違っていた。
 「人の道は基本的には誰にとっても同じだ。人はこの世に生きている間に、その道を学ばねばならぬ。ある者は速く、他の者はゆっくりと学ぶ。慈悲、希望、信仰、愛、……、人はこれらすべてを学ばねばならぬ。一つの希望、一つの信仰、一つの愛というように、切り離されたものではなく、すべてはつながっているのだ。また、それを実行する方法はいろいろある。しかし、人はまだ、どれも、ほんの少ししか知らないのだ……」
 「聖職についている人々は、一般の人々よりもこれらのことをよく知っている。彼らは純潔と従順の宗教生活を送っているからだ。彼らは何の見返りも求めずに、多くのものを捨てているからだ。他の者達は、見返りを求め続けている・・・・・己れの行動に対する見返りと正当化を求めているのだ・・・・・我々が望んでいる見返りはあり得ないのに。見返りは行為の中にある。ただし、何物も期待しない行為・・・・・利己的でない行為の中にだけ、あるのだ」
 「私はまだ、それは学んでいません」。キャサリンがそっと、ささやくようにつけ加えた。

    ブライアン・ワイス『前世療法』、山川紘矢他訳、PHP研究所、1996、pp.95-99





 b-20 (指導霊たちから受ける人生の教え) 

 「では時代を進めて、その時のあなたの最期の日まで行って下さい。死の直前まで行って下さい。そして何が見えるか言って下さい」
 彼女は小さなささやくような声で答えた。
 「大勢の人々と建物が見えます。サンダルが見えます。サンダルです。きめの粗い布が見えます」
 「何が起こっているのですか? あなたの死ぬ瞬間まで行って下さい。あなたに何が起こっていますか? 何か見えますか?」
 「何も見えません……もう私が見えません」
 「あなたはどこにいるのですか? 何か見えますか?」
 「何にも・・・・・ただ真暗やみです・・・・・明かりが見えます。とても暖かな明かりが」。彼女はもう死んでいた。もう霊的な状態に移っていた。彼女は実際の死を再び体験する必要がなかったのだろう。
 「明かりの方へ近寄れますか?」と私は開いた。
 「今、そちらへ行くところです」。彼女は平和な気持ちで休んでいた。再び待っていた。
 「あなたは今終わった人生を振り返って、その人生から何を学んだのかわかりましたか?もう気がつきましたか?」
 「いいえ」と彼女はささやいた。彼女は待ち続けた。突然、彼女は緊張した感じになった。いつも催眠中はそうだが眼を閉じたままだった。彼女の頭が左右に振れた。
 「何が見えますか?何が起こったのですか?」
 彼女の声が今度は大きくなった。「誰かが……私に話しかけているみたい!」
 「何と言っていますか?」
 「忍耐ということについて話しています。人には忍耐が必要ですって」
 「もっと続けて」
 その答えは、詩人のマスターからのものだった。「大切なことは忍耐とタイミングだ。・・・・・すべてのことには時がある。人生をあせってはならぬ。人生は多くの人々が期待するように、うまく予定通りにゆくことはない。したがって、人はその時々にやってくるものを受け入れ、それ以上を望まない方がよいのだ。命には終わりがない。そして、人は決して死なないのだ。新たに生まれるということも本当はないのだ。ただ異なるいくつもの場面を通り過ぎてゆくだけなのだ。終わりというものはない。人間はたくさんの次元をもっている。時間というものは、人が認識しているようなものではない。答えは学びの中にあろう」
 長い沈黙があった。詩人のマスターは続けた。
 「時がきたれば、すべてのことが、汝には明らかになろう。しかし、今は、我々が汝に与えた知識を完全に消化する時間が必要なのだ」。キャサリンはそう言うと黙った。
 「他に何を学べばよいのでしょうか?」と私は聞いた。
 「マスター達は行ってしまいました」とキャサリンが小さい声でささやいた。「もう誰の声も聞こえません」

   ブライアン・ワイス『前世療法』、山川紘矢他訳、PHP研究所、1996、pp.131-133